第 03 章「彷徨(ほうこう)」
第 01 節「ヱイユ」
ヱイユと灰色の竜との出会いは、ごく幼い時代にまで遡る。
戦う力を求めた少年は、ある時ドラゴンの仔と戦闘をし、味方につけたのである。
彼は幼竜に、「アーダ」という名前をつけた。
古代の魔法文字で、数の「二」を表す言葉である。
これには、「分身」という意味も込められていた。
いつしか上空に雲が出始めて、視界を遮ってしまった。
ヱイユは山の斜面に近づき、目を凝らしたが、標高数千メートルの高地だけあって、ごつごつの山肌が厳めしい。
ここは伝説の怪鳥・ガルーダの棲む山として名高く、「ヤコハ・ディ・サホ(双牙の魔山)」と呼ばれていた。
頂上へ近づくにつれて暗雲が広がっていき、辺りは一斉に豪雨となった。
ヱイユは構わず元の姿に戻ると、「メゼアラム」を使って灰竜「アーダ」を召喚した。
そして、彼自身は「ドファー」を込めて変形させた剣を片手に、魔法で宙を浮いているのであった。
荒天は更に猛りを増している。
強風に煽られながら、二人は山の頂上を見上げた。
「すまない。
奴をおびき寄せてもらいたいんだ。」
アーダはヱイユの意思を受けて力強い鳴き声を発し、そのまま一気に上空へと舞い上がった。
ヱイユも別の経路をとって山上を目指す。
すると途端に、暗雲よりも一層黒い大きな影が、分岐した「二つの山頂」の谷間から、不気味な姿を現した。
活きのいいドラゴンの鳴き声を聞きつけて、いよいよ「上天の支配者」が登場する。