第 02 章「連動」
第 02 節「機は熟さず」
閉ざされた扉の前では、ヨムニフと戦うツィクターとソマ、それに、後から駆けつけたトーハの姿があった。
戦闘に立つことのできない彼が、パナとツィクターの子を預かり、後方で二人を見守っていた。
ヨムニフは「グルガ」と「インツァラ」を合わせて用い、幼いソマをかばいながら応戦するツィクターを、滅多打ちにしていた。
すでに、彼の鎧は消し飛んでしまって、着衣も破れ、深手を負っていた。
「ツィクターさん!
無理しちゃだめよ!!
わたしが今治してあげるから、動かないで。」
たびたびソマが魔法で治療をしてくれたが、相手は一瞬にして生命それ自体を奪い去る「グルガ」の術士である。
もう、手立てなどはない、と言ってよかった。
「いい気味だ!
でもな、おれは飽くまで時間稼ぎに過ぎない。
お前ごとき生かしておいたところで、何も邪魔などできやしないからな・・・!!」
不可解なことだが、ヨムニフは“LIFE”という、尊厳なる思想に生き抜く彼らを殺傷することには抵抗があるらしかった。
その聖なる目的、強い意志、清らかな生命を多少なりとも知っているだけに、もし手にかけた場合、一体、自身はどのような報いを受けるのだろう・・・。
相手をいたぶることに気違いじみた快感を覚える反面で、身震いするほどの恐怖に、極限まで追い詰められていた。
しかし、LIFEの人々が仲間や家族の危機に瀕して、悲壮なまでの血戦を強いられていることに変わりはない。
戦況の不利を悟ったか、トーハに抱かれていた赤児は、突然大声で泣き出した。
このような泣き声は、時に大人をも不安にさせるものである。
「すまない、ファラ・・・。」
「ダメよ!
泣かないの!!
わたしも、精一杯に戦うから。」
「うるさいガキだ・・・。
ムヴィアの子とあらば、今のうちに絶っておくべきかもしれぬ・・・!」
ヨムニフは、もはや戦闘不能状態のツィクターを前に、彼らの赤児を狙って、術を唱えはじめていた。
「あなた、何て人!
それだけは許さないから!!」
怯えるトーハを越して、ヨムニフが指先で幼子に狙いを定める。
最も「グルガ」らしい発動法、「奪命」の構えである。
すると、少女ソマは幼子に駆け寄ってその前に立ち、叫んだ。
「この子を攻撃するなんて、許さないわ!
覚悟しなさい!!」
ソマの渾身の魔法が、ヨムニフへ向けて放たれた。
彼女はその場で意識を失って、倒れてしまった。
詠唱半ばのヨムニフから、暗黒色のエネルギーが奪われて、大地へ還っていく。
その流れは、もはや誰にも止めることができなかった。
「こ、このガキめ・・・。
・・・・・・ならよお、みんなまとめてあの世行きにしてやるぜ・・・!
死ぬがいい・・・。
アーッハッハッハ・・・!!」
王宮が崩れ始めた。
シェブロンを地下に幽閉する目的でヨムニフに召喚された、あの土竜型モンスターが、術士の意思を受けて一気に力を解放したのである。
天井も、壁も、床も、全てが崩壊するほどの激震であった。