第 02 章「連動」
第 01 節「未来の珠(たま)」
男は、ニヤニヤと笑みを浮かべていた。
「道は二つ。
もう一度『グルガ』を封印するか、あるいは『LIFE』によるか、だな。」
「あの塚を見て明らかなように、『グルガ』を封じるためには術士の犠牲(ぎせい)が必要となる。」
「覚悟はできています。」
「あなたには、まだやらなくてはならないことがあるでしょう。
それに、封じるだけでは、いつまた破られて危機が訪れるか分からない。」
「ならば、残された道はただ一つ!」
「まったく気の遠くなるような話だが、その方法しかなさそうだ。」
子供たちが寝静まっているためか、しばしの沈黙が部屋をつつんだ。
暖炉の炎が一瞬、燃えあがったようだった。
「この異変は、そう長く続くものではないだろう。
『夜』が去ったら、少しずつでも術士の育成を進めるんだ。」
大空を「黒い翼」が覆い尽くしてから約半年、彼らは最も安全な部屋を集合場所として連日方々(ほうぼう)へ出かけ、定刻には戻ってきて会議を行なっていた。
王国騎士団出身のノイとツィクターは、街へ上がって「LIFE」に協力できる反乱兵を探した。
けれども、「剣」など武器の扱いに秀(ひい)でた兵士たちは、誰一人として「LIFE」の発動などには興味を示さなかったのである。
結局、声をかけた相手からの冷笑や侮辱(ぶじょく)ばかりを受けて、二人は半(なか)ば落胆(らくたん)して帰ってくるのであった。
一方トーハは、シェブロンの部屋よりも奥に構えた、彼のいわゆる「特別実験室」へと篭(こも)りきりで、「魔法の変換」を実現する器具の開発などに全力を注(そそ)ぎ込んでいた。
また、パナは自分の赤ん坊とソマの子守り役として、シェブロンの部屋に残っていることが多かった。
幼い子供を持つ母として、皆、彼女を気遣(きづか)っていたのである。
それでも彼女自身、戦闘に立つことを余儀(よぎ)なくされる場面がままあった。
たとえば、あの細い街路の隠し扉の部屋は、もとツィクターとパナが住んだ家の地下室を改造したものである。
あの晩「悪魔」たちをおびき寄せる形で結界に封じたのも、研究のために止(や)むを得ない危険を冒(おか)したといえる。
他に、悪魔との対峙(たいじ)でツィクターが用いた「ガラス玉」や「燃え上がる剣」のような、魔法を込めた護身(ごしん)用具も、全て彼女の手によるものだった。
そしてもう一人の男はというと、平素(へいそ)どこで何をしているのか知られていなかったものの、日中十回以上にわたってシェブロンの部屋を訪れ、ニヤニヤしながらパナや少女に冗談交じりの言葉をかけていた。
このように、夜毎(よごと)「449街区」へ集まってくる革命者たちの多くが活動的だったのに対し、中心者シェブロンは、改めて全魔法の書物を取り寄せるなど、何か別の準備に追われているように思われた。
「では博士、わたしがここを守りますので、今夜はどうかお休みください。」
疲れきった表情を隠しながら、ノイが勢い込んで促(うなが)している。
「大丈夫。
発動中の結界があって、彼らには一歩も踏み込めないわ。
もし入ってきたら、あなた、しっかり守ってくれるんでしょ?」
「ああ。
ノイくんも少し休んだ方がいい。
魔法を頼らずに、今までよく持ちこたえたものだ。
このメンツで戦う以上、恐れるものは何もないさ!」