第 02 章「連動」
第 01 節「未来の珠(たま)」
十五年前のある日、王国から最も遠くに位置する「塚(つか)」が、何者かによって焼き払われる事件があった。
後の調べによれば、それぞれの「塚」に祀(まつ)られていたものは皆、術者の姿をした「石像」で、それらは必ず「透(す)き通った石」を手にしていた、というのである。
言うまでもなく、このようないきさつで「封印」は解き放たれていった。
しかし、それは一体何の封印だったのか。
ちょうどその半年後、一人の騎士が息を殺しながら、リザブーグ王国城下の、とある街角(まちかど)へ逃げ込んできた。
建物の陰(かげ)に身を潜(ひそ)ませながら、彼はじっと耳を澄(す)ましている。
近くを金属の靴音(くつおと)が何度も通り過ぎていった。
不気味なことには、靴音が遠ざかった後、周囲からは全く人の気配がなくなってしまうのである。
活気に満ち溢(あふ)れた平時(へいじ)の城下では、このようなことは考えられない。
また、世界に異変が起こってから久しく、彼のように身を潜めて戦う反乱兵が、どこにでも見受けられたものだ。
暗い街路の中でも、特に影ばかりを選んで、男は先を急いだ。
もし天に姿を晒(さら)したならば、即座に屍(しかばね)と化したであろう。
大空を満たした「黒い翼」とは、それほどまでに貪欲(どんよく)なる、「殺害者」たちだったのである。
時々、耳を聾(ろう)せんばかりの轟音(ごうおん)とともに、雷雨(らいう)が襲ってくる。
あまりに激しすぎる稲光(いなびかり)はしばしば天を斬(き)り裂(さ)き、その狭間(はざま)から新たな「黒い翼」の者どもを呼び寄せていると言われていた。
次第に強まる雨に打たれて、金属の鎧がカンカンと音を立てた。
敵に見つかるわけにはいかないと、ついに男は肩のアーマーを外し、目に付かない物陰へと置きやってしまった。
そして再び、影を選びながら道を急いだ。
ここにも人の気配は全くなかった。
細い街路へさしかかったとき、彼は注意深くあたりを見まわした。
この種の道は、多く亡命者を敵から匿(かくま)うだけでなく、獲物を生(い)け捕(ど)るための「罠(わな)」ともなり得るのだ。
しかし、どうやら今回は、敵の目を欺(あざむ)くのに成功したようである。
男は、隠し扉の階段から、地下へと降りていってしまった。