第 02 章「連動」
第 01 節「未来の珠(たま)」
その日は朝が来なかった。
天が裂(さ)け、地は枯(か)れ果てて、一帯に鼻をつくような悪臭が立ち込めていた。
満たされるはずの光に替(かわ)って、大空には草刈(くさか)り鎌に似た「黒い翼」が、バサバサと不快な音を立てて舞い遊んでいる。
もはや回復の余地はない。
飛ぶ鳥も、道ゆく人も皆、彼らの餌食(えじき)となってしまったからだ。
リザブーグ王国領(りょう)「ディスマ」は、霧深い渓谷(けいこく)と山々で往き来を遮(さえぎ)られた、まさに禁断の地であった。
人々はこの地を、王国社会から闇へと葬(ほうむ)られた罪人が最後に行き着く場所であるとか、あるいは古代の霊所であるなどと伝え、事実、一帯を囲むようにして、いつの時代からか「巨大な方陣」だとされる、五つの「朽(く)ちた塚(つか)」が置かれていた。
そこに眠るのは鬼神か魔神か、祟(たた)りを恐れてか、誰人も立ち入ることがなかったために、やがて「ディスマ」は「暗黒」それ自体すら、人々に思い起こさせるようにまでなっていたのである。
未知なるものへの迷信が恐怖を、ひいては悪魔をも、人の心に描き出してしまう。
一方、魔法を扱う学者や術者の間では、昔から「魔法の封印」に関する伝説が断片となって語られていた。
また、彼らの末弟(まってい)の中には、術者の子と生まれても、どういうわけか魔法を発動できない者が稀(まれ)にいた。
何らの力をも有(ゆう)さない魔法使いの「末裔(まつえい)」たちは、多くが学者となって研究を進めてきたのだった。
そしていつしか、自らが魔法の能力を持たずに生まれてきた原因を、古代に行なわれた「忌(い)まわしき呪術の封印」に見出したのである。