第 01 章「道」
第 02 節「港町」
一方、町には少しの平穏(へいおん)が戻っていた。
「旅の一行」による広場への誘導と、状況説明がなされていたのである。
「みなさん、森の上空に立ちこめている黒雲(くろくも)の正体は、もうじき分かります。
男の子たちも戻ってきますので、安心して待っていてください。」
噴水のところに立って、あの少女が説明している。
ファラが目線を避けていた少女である。
彼女は名前を「フィヲ」といった。
魔法使いの老婆とともに馬車で「五芒星」の一端を担っていたフィヲは、方陣の充填(じゅうてん)が始まると、他のメンバー同様、魔力を込めた。
初めて受け持つ役目に緊張していたが、すぐに老婆が何か異変に気付いてこう言った。
『いけない、この程度の方陣では太刀打ちできないようだ。』
『えっ・・・!?』
老婆は彼女を御者(ぎょしゃ)に託して馬車で町へ帰し、自らは「祠(ほこら)」へ赴(おもむ)くという。
戦闘に立つことを許されていないフィヲとしては、従うほかなかった。
非常事態には、各自が判断して戦うか、町へ戻るかするように。
まだファラの話を聞く前だったので、一行の中心者の壮年はそのように指示していた。
土地に伝わる狼の魔獣が町を襲うことも危惧(きぐ)された。
しかし、老婆が方陣の異変を察知したように、他の術者も同じこと感じた。
『これよりずっと大きな半径を持つ、「負(ふ)の方陣」が形成されている・・・。』
壮年は次の手を打たねばならなかった。
それだけでなく、目の前の町民たちの混乱を鎮めることに力を尽くした。
まず、避難できていない人を探して自ら一軒ごとにまわっていった。
そんな折、まだフィヲが戻る前、町の混乱が続き、広場に町民が誘導されている最中のこと、ある娘の行方がわからない、という申し出があった。
見回りの甲斐があって、それからほどなく、「もう一つの宿」で、黒いローブを着た男と幼い娘が保護されたのだ。
少女ティティカは無事家族と合流できたのである。