第 01 章「道」
第 02 節「港町」
ファラたちは、鍾乳洞(しょうにゅうどう)の広い空間に出た。
奥のほうに「祭壇(さいだん)」がある。
見ると、顔色の悪い、古めかしい服装をした学者――科学者だろうか、一人の人間がこちらに歩み寄ってきていた。
背が相当に高いように思われる。
そしてファラに話しかけてきた。
「お前か、大切な儀式に欠かせない『生贄(いけにえ)』を、勝手に持ち出したのは。
おかげで、『邪気』だけが次から次へと集まって来おる・・・。
さあ、それをこっちによこせ、抵抗は・・・許さぬ!」
ファラは心底(しんそこ)怯(おび)えていた。
『な、何言ってんだろ?
いけにえなんて知らないぞ・・・。
それに、あの人どうしてこんな不気味なとこに、一人でいられるんだ?
空のエネルギーを呼び集めたのも、この人なのか。
・・・人間が、あれをやったのか!?』
祭壇の両側に、あの男が起こしたと思われる「炎」が揺らめいていた。
たしかにファラが起こすものとは違った、暗い輝きであった。
また、空洞の脇にあの少年たちが眠っているのをファラは横目で確認した。
そして「たいまつ」を水たまりの中に捨ててしまった。
「あれらは何の役にも立たんよ。
・・・下衆め、いらぬことをしおる。
さあ、お前の意思には関係ない。
それは、私のものだ。
・・・何なら。」
男の身振りで突然、激しい地震が起こった。
鍾乳洞そのものが崩れていくようだ。
「狼」が巨大化して、ファラを守っている。
「ダメだよッ、きみがやられてしまう。
ぼくが『ロニネ』を張るから!」
そのとき、ファラの魔法から離れて「狼」が小さくなった。
空洞の崩壊で、何が起こっているか全くわからない。
ただ、ファラはすでに結界を立ち上げて、少年たちの周りと自分の周りに二つ、かけ終えていた。
あとは地震がおさまるのをじっと待つ以外なかった。
絶え間のない轟音(ごうおん)を経て、辺りが少し明るくなってきた。
ずっと上のほうに「月」が見えている。