The story of "LIFE"

第 01 章「道」
第 02 節「港町」

第 09 話
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「祠(ほこら)」は不気味な静けさを呈(てい)していた。
中から漏れてくる灯かりが、なぜか「炎」の灯かりにしては「暗く」思われた。

「おーい、誰かいるのかー?」

ファラは勇気を出して呼びかけた。

すると、奥のほうで「コツ、コツ」という足音のようなものが響いた。
中にそう何人もいないようである。

荷物は宿に置いてきてしまったので、ファラは杖しか持ち合わせない。
そこで、「たいまつ」を作ることにした。

魔法使いの「杖」は、様々な魔法に耐えて、その力を宿らせることが可能である。
しかしこの時、奥で何者かと対峙(たいじ)することを考えて、そうするわけにもいかなかった。
太い枯れ木を拾うと、「フィナモ」で火を灯(とも)した。

ファラは左の手でも魔法を使うことができたので、「たいまつ」を右手に、「杖」を左手に持って、奥へ入って行った。

もとが洞窟だったこの「祠」は、壁に苔(こけ)や蔦(つた)が生(お)い茂っている。
足元はジメジメとして滑りやすく、ところどころに天井から滴(したた)ってできた水たまりが見える。

静寂の中、ファラの足音もまた、奥まで響いていった。

洞窟半(なか)ばまで来た頃だろうか、気がつくと、夕べもファラを襲った「蝙蝠(こうもり)」たちが、彼の周りをすっかりと囲むようにして天井からぶら下がっていた。

「まずいな、すごい数だ。
『ロニネ』を張って移動するか、いや・・・。」

ファラが思いついたのは、いま初めてのことであるが、「メゼアラム」を使って「狼」を召喚し、従えて歩こう、ということだった。

この方法には、捕らえてある魔獣の獰猛(どうもう)さを考えても、果たしてうまくいくのか――ちゃんと従うのか、という不安が付きまとった。
しかし魔法の効果からすれば十分可能であろう。
「杖」は最後まで残しておきたい。

初めての試みは成功だった。

「狼」は、ちょうどあの宿にいた「ライオン」ぐらいの大きさで、よくファラに従った。
永(なが)きにわたりこの森を支配してきた獣である。
「蝙蝠」たちは、急におとなしくなった。
更に「狼」は、「蝙蝠」を何匹か落として食べてしまっていた。

「やっぱり、こいつも『動物』なんだなぁ。
ぼくを襲ったのだって、生きていくためだったんだ。
・・・人間は、家族を失うから恐れるし、悲しむけど・・・。
お前はちょっと力がありすぎるから、当分ぼくが、みんなのためになるような「力」の使い方を教えてあげるよ。
そうしたら、残酷なやりかたはしなくなるかもしれない。」

「狼」の色は、夕べ「暗黒」の輝きを持っていた。
しかしこのとき、ほんのりと周りを照らしているかのような明るさを、「光」を放っていた。

自然界だけでは動物の本能に支配される。
また人間だけでは他の生き物を忘れ軽んじることになる。
こうして二つの「生命」が触れ合い、「力」を与え合う光景は、まさに「異彩」を放っていた。

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