第 01 章「道」
第 02 節「港町」
壮年は「長老の木」でできた杖を持っていた。
世界のどこかに、大きな大きな木が聳(そび)え立っており、これを昔から魔法使いたちが「長老の木」と呼んだのである。
「きみに力を託すよ。」
壮年がこう言うと、ファラの体が高く舞い上がった。
内臓が浮かんだ感覚に、彼は一瞬、落下することへの恐怖を覚えた。
ところが目をつぶって、開けたときにはもう、そこは森の「祠(ほこら)」の前だった。
風を切った感触もない。
実際、あの速さで風に当たったら、ファラの体はズタズタになっていただろう。
これは、壮年がファラに「ロニネ」をかけて保護したためだった。
「何も・・・起こって、ない?」
そうではなかった。
自然の洞窟に手を加えて作られた「祠」の奥のほうで、何やら炎の明かりが揺れている。
さすがにファラも、ゾッとした。
その頃、町の片隅にある小さな家の地下室で、黒っぽいローブを纏(まと)った男が一人、幾冊もの魔導書に囲まれて、何かの儀式を行っていた。
この家は普段、港町でもう一つの「宿」を経営している。
ファラも夕方ここを訪れたのだが、「うちには泊められない」と言って断られていた。
ここは、「特別な人々」だけが迎えられる宿であった。
ローブの男は、今朝早くファラが見かけた少年たちの知り合いで、「じいさん」と呼ばれていた者である。
町の少年たちは、一種の好奇心から、この老人を慕って宿に出入りしているのだった。
そしてその結果、利用される形となってしまった・・・。
今夜の「月」を早くから予測し、少年たちに古文書を見せた上で、それとなく「異変」をほのめかしていたのは、この老人だった。
少年たちが関心を持たないはずはない。
また、少年たちはいつも「四人組」で過ごしている。
つまり、今日の事件に巻き込まれていない、もう一人がいるのである。
それは村に住む「ティティカ」という、彼らより年少の娘であった。
午前中にファラが通ってきた、あの村落に住んでいる。
彼女も今夜の異常な騒ぎで家を抜け出してきた。
何より、いつもの仲間が今日一日、町にいない。
薄暗がりの中を、ティティカは町に向かっていた。
そして何も知らない彼女に、危険な影が迫っていた・・・。
「何よこれ!
おじいちゃん、どうしちゃったの!?
みんなはどこ行ったの!!」
いつも来なれた場所でもある。
町はずれの「宿」に、少女は一人で駆け込んでいってしまった。
そこには、彼女の「知らない人物」が、「いつもの笑顔」で座っていた。