The story of "LIFE"

第 01 章「道」
第 02 節「港町」

第 06 話
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宿は吹き抜けの、四角い螺旋状(らせんじょう)の階段で三階まで通じていた。
壁ごとに二つの扉があって、それぞれ部屋になっているようである。

一階フロアはとても賑やかで、あの少女が小さな男の子と話しながら、くすくす笑っている。

ファラは最初から彼女に気がついて、わざとそっちを見ないでいた。
「ライオン」も、フロアで寝そべっている。

すぐに案内係がファラを部屋につれて行ってくれた。
空きは十分にあるようだ。

古くから港を訪れる旅人たちが泊まった宿らしく、ベッドも床も古い木でできてはいたが、ファラはこの上ない安堵(あんど)で、係りの者が出て行くや、まだ七時過ぎだというのに、眠りに落ちてしまった。


さて、静まり返った港町で、この頃一つの騒ぎが起きていた。
町の子供が何人か帰ってきていないというのである。

毎日夕方には休息に入るこの町としては、異常なまでの緊張感が漂い始めていた。

通りにはランプを持ってあわただしく行き来する人の姿が、刻々と増えていく。

そして次第に緊張が高まりながら、ついには子供たちの名を呼び叫ぶ大人たちの声が響くまでになっていた。

「三階建ての宿」でも、あの変わった旅人たちが一室に集まってきていた。

中央に立って話をしているのは、この一行の中心的な人物であろうか、端正な顔立ちをした白髪混じりの壮年である。

彼は騒ぎを聞きつけると一行の者たちを集め、事細かな指示を出し始めた。
これを受けて、何人かが町の外まで出て行ったり、部屋を出入りしたりしていた。

しばらくすると、彼らの大半が出払ってしまった。
残っているのは、あの壮年と他の二人だけである。

なにやら問題があるらしい。

「この地に伝わる文書(もんじょ)によると、数十年に一度、太陽と『山の祠(ほこら)』と月とが一直線に並ぶ満月の夜、闇の種族の手によって災いがもたらされた、とある。
何者かが少年たちにこうした伝承を教え、今夜の満月に強大な力を得ようとしている。
悪しき力の集中を抑制する『五芒星(ごぼうせい)』は布陣できるだろう。
だがあと一人、戦力となる術者はいないものか。」

このとき、部屋に居合わせて一部始終を見聞きしていた宿の経営者が、旅客名簿を持って入ってきた。

「三階の奥の部屋に、『魔法使い』の少年が泊まっています。
彼に手伝ってもらえるのでは?」
「よし!
会ってみよう。」

早くから休んでいたファラは、騒ぎが起こってからも目を覚まさずにいた。
かなり深く眠り込んでいたようだ。
そのまま、四、五時間は過ぎていった。

ある時、目が覚めて、また少しまどろみかけたとき、ドアのところから誰か呼んでいる声が聞こえた。
こうしてついに、彼は外の異常な騒ぎに気がついたのである。

歩いてきたままの服装で眠っていたファラは、宿主に請われてあの「旅の一行」の部屋へ駆け込んだ。

そこには白髪混じりの壮年が、外へ指示を出してきたばかりといった様子で息を切らせて待っていた。

ファラは彼を初めて見たのだが、どうにも初対面とは思えない、親近感を持った。
そして、この突然の出会いに不思議な驚きを感じていた。

「よかった!
君、使える魔法は?」
「あ、はい。
『フィナモ(火)』、『ロニネ(壁)』、『メゼアラム(召喚)』です。
それと・・・。」

ここで彼は、あの「狼」のことを言おうか考えた。
しかしこの人にならば話しても良さそうだ、という直感によって付け足した。

「途中の山道で、『巨大な狼』と遭遇したんです。
キャンプが襲われて、一時はどうなることかと思いましたが、『メゼアラム』を使って閉じ込めてあります。
だからまず、『パティモヌ(水)』は使えると思うんです。
でもそれ以外がよく分からなくて・・・。」

「なんと!
昨日のあの山で、狼※1と対峙して無事だったとは・・・?」

※1:狼は月の眷属(けんぞく)。

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