The story of "LIFE"

第 01 章「道」
第 02 節「港町」

第 05 話
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それからファラは船着場(ふなつきば)に赴(おもむ)き、船の発着状況を確認した。

ここから出ている船は二種類あり、一つは大陸の北方にある半島へ行くものらしい。
もう一つは遥か東の群島へ貿易に行く船で、これに乗るには行き先の治安が悪いため、装備を整える必要があるそうだ。


倉庫が立ち並ぶ波止場(はとば)を通りかかった時、一人の老人がファラに声をかけてきた。
さっきのおばあさんと同じような驚きをもって彼を迎えたことを考えると、この人があの家のおじいさんだろうと思われた。

しかし、詳しい話をすることにためらいを感じたファラは、帰っておばあさんと二人、せめて自分のことを思い出して元気になってもらえたらと、銀色の鎖でできた古い「ブレスレット」を取り外して、老人に手渡した。
いつからか、彼が愛用してきたものである。

「『フィナモ』と『ロニネ』を宿らせてあります。
何かの時にはこれが守ってくれるでしょう。」

老人は目を細めて喜んでいた。
ファラは少しあわてて別れを告げた。
ここへ来てからのいろいろな出来事で、少年の心が複雑な気持ちに沈んでいたのは事実であった。

忙(せわ)しく広い港町を、どれくらい尋ねてまわったことだろう。
ファラは獣との激しい応酬よりも、ほとんど今日一日のために疲れていた。

結局、あの三階建ての宿以外に、この町で泊まれるところはないようだった。
すでに日が沈んでしまっていた。

「空いている部屋はあるのかな。
今日はこれ以上、歩いて行くわけにもいかないぞ・・・。」

港は一日の仕事を終えて、完全に休息していた。
町はしんと静まりかえっている。

そんな中、あの宿だけは賑やかな灯かりをともしていた。
ファラにはやはり、ここがオアシスに思えるのだった。

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