第 01 章「道」
第 02 節「港町」
「メゼアラム」は「召喚」と訳し、邪気を封印するとともに、封印した魔獣の力を借りて、それを思うままに使いこなすことさえできる。
したがってこの時、ファラが魔法陣を描いたところ――大地・虚空(こくう)・水面など、どこにでもあの「狼」を呼び出すことが可能であった。
夕べ、あの魔獣を封じ込めたとき、強大な力を手に入れたことに対して、ファラは少なからず喜んでいた。
この先、いついかなる時に危険が迫り来て、力が必要になるかは、全く予測できないからである。
実際、それを悪用するつもりなどなかったけれども、あのおばあさんの話を聞いてから、自らが有する破壊力に恐れを抱き、過去の犠牲者を思っては複雑な心境をどうすることもできなかった。
その上ファラには、あの狼の力がどんな性質のものか、ほとんど分かっていなかった。
「『ロニネ』を破ったことだけは確かだ。
爪に宿っているあの破壊力は、何ていう魔法だろう。
もう一つ、『パティモヌ(水)』も使えるな。
いずれにしても、もっと魔法の知識が必要だ。」
ファラは一時間も歩き通しながら考えにふけった。
今度はまわりの景色に見入ることはなかった。
だんだん賑やかになってきたことを感じたとき、ふと顔をあげるとそこは馬車通りで、町の中心部に程(ほど)近い広場であった。
「あれは・・・?」
見ると、そこには大きな「ライオン」をまるでペットの犬か何かのように手懐(てなづ)けてつれている、一種不思議な感じの一行がいて、長旅の疲れを癒すためだろうか、ここに立ち寄り滞在するようである。
老人から子供まで、男女さまざまな人が入り混じり、広場中央の三階建て宿の前で、ここの賑わいを更に活気づけていた。
孤独な旅人であるファラにとって、それはさながら砂漠のオアシスとも言うべき光景だったろうか。
その中に一人、際立(きわだ)って見える少女がいた。
ファラは少女と視線が交わるや、すぐに下を向いてしまった。
「また後で来よう・・・。
ここはいっぱいになるかもしれないな。
他に宿があったら、そこに泊めてもらおう。」