The story of "LIFE"

第 01 章「道」
第 02 節「港町」

第 03 話
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道は集落に入った。

港へ出かける男たちの中には、ファラに親しく声をかける者もあった。
人々の気立ては良さそうだ。

ずっと聞こえてきていた家禽(かきん)の声も、この辺りで飼われている鶏たちのものだったらしい。

のどかな村の風景に心を奪われながら、ファラは港を目指して歩いて行った。
道中、夕べの危険なキャンプで疲れきっていたことから、明日までは港に滞在しようとも考えていた。
なにより、この土地の美しさと、人々から感じられる温かさに強くひかれているのだった。

「あれ、ぼうや。」

通りかかった家のおばあさんだろう。
この時、穏やかに少年を呼び止める人があった。
ファラはあいさつをした。

「一人で旅をしているのかい。
うちに寄っておいで。」

村では朝食の準備が始まっていた。
このおばあさんは、ついさっき誰かを港に送り出したばかりのようで、もう食事の準備を済ませてあった。

「うちだけでは食べきれないほど作ったから、ぼうやもどうぞ。」

ファラはすすめられて食卓についた。
そこには、貿易によって世界中からもたらされた食物が何種類も並んでいた。

「すごいごちそう!」
「ゆっくりしておいで。
あんな山をよく越えてきたもんだ。
ぼうやも『魔法』を使うんだろう?」
「はい。
小さい頃に父さんから『フィナモ』を教わりました。
どんなことがあっても生きていけるようにって、『火』の魔法を選んだそうです。
夕べもそれが役に立ちました。」
「すると、怪物から身を守るのも、調理をするのも、魔法でやるのかい?」

温かい日の光がさす台所で、ゆったりとした時が流れていく。
ファラは旅の話を、おばあさんは村や近所の子供たちの話をして。

「ぼくの母さんは『魔法使い』で、父さんは『剣士』でした。
剣士の父さんが魔法を教えてくれたなんて、なんだか不思議ですけど・・・。
ぼくが小さいときに、母さんはどこかの土地の封印のために亡くなったそうです。
父さんとぼくは一緒に旅をしていました。
けれど、五年前に別れ別れになってからは、ぼく一人で旅をしているんです・・・。
あれから父さんがどうなったのか、はっきりは分かりません。
でもぼくは、国と国が争う大きな戦いの中で生まれた子供だから、何があっても悲しんではいけない、と言って育てられました。」

「それでつらい思いをしながら旅を・・・。
中には魔法を悪用する連中だっているっていうのに、偉いご両親だねえ。」
「この辺りにもいるんですか?」
「・・・もう三十年も前になるかしら、港町の片隅に、ガラガラ声の、醜い魔術師が住み着いたことがあったんだよ。
その頃からしきりに森の獣が襲ってきて、ある時、村から子供が大勢、いなくなってしまった・・・。
けれど、誰もが怪しいと思って、そいつの古小屋へ行った時にはもう、何も残っていなかったんだ。
夢でも幻でもない、あれが魔法なんだって分かったのさ。」

おばあさんが指差す暖炉の上には、村の子供たちを撮った写真なのであろう、数枚が飾られていた。
その中に一枚、ファラくらいの男の子が一人で写った古い写真があり、特に目を引いた。

「森の獣!」

夕べ歩いてきた感じからも、強大な支配者が住む森の中には、他に秀でた獣が現れないはずである。
そして、その場に何の痕跡(こんせき)も残さずに獲物を狩るほどの力は、魔力を持った獣以外には具(そな)わらない。

すると、おそらく村を襲ったのはあの狼であろうとファラは考えていたのである。
とても夕べのことは話せない。

その後、ファラは努めて明るく振る舞った。
そしてしばらく歓談した後に、深謝(しんしゃ)して食卓を立った。

「ぼくはこれから港町へ行くので、おじいさんと会うかもしれません。
ごちそうになったお礼を言わなくちゃ・・・。
おばあさん、ありがとう、お元気で。」

別れを告げると、ファラは真剣な眼差(まなざ)しで再び歩いて行った。

『あれほどの獣が、どうして子供ばかり狙ったんだろう。
動物だけなら、そんなことはしなかったはずだ。
――魔術師・・・?
裏で糸を引く人間がいたんだろうか。
考えてみれば、父さんはいつも黒い服の魔法使いたちを追っていたような・・・。
それにしても、おばあさんの悲しみはどうしてあげればいいんだろう。』

ファラは夕べのような危険に何度も遭(あ)ってきた。
しかし彼は獰猛(どうもう)な怪物相手にも、決して攻撃を仕掛けたことがなかった。
“生命(いのち)”がつながっていくための「食物」はまた別として、懸命に生きている相手を前に、回避が可能な戦いで、人間が人間を、また他の生き物を殺傷することだけは許されないもののように感じるのだった。

それで、自ら学んだ第一の魔法は「ロニネ(結界)」だったのである。

また彼は、殺意に満ちた禍禍(まがまが)しい力を封印する魔法「メゼアラム」も、求めて習得した。

そして彼が使う魔法は決まって「ロローワ」という《生命保護の》形態であり、「ドゥアラ」と呼ばれる殺傷型の魔法を使うことはなかった。

魔法とは一つの力であるがゆえに、使い方によっては相手を傷つける力とも、何かを守る力ともなり得るのである。

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