第 01 章「道」
第 01 節「山道」
さっきの出来事は、夢であったのだろうか。
一変して、静寂(せいじゃく)が訪れた。
静寂は「死」を思わせる。
集まってきていた動物たちも、すっかり畏怖(いふ)して動かない。
不思議なことに、あの大量の水もスッと大地に吸い込まれて消えてしまっていた。
狼もまた姿を消していた。
月が再び傾き始めていた。
決着を見たのだ。
あの化け物にとって、「月の力」を借りられる時間はごくわずかであったけれども、それで十分だったといえる。
『人間の子は既に怪物の腹の中だろう』と、ここの全ての生命が感じていた。
その後、まだ夜が明けない闇の中、他の動物たちは去ってしまっていたが、腹をすかした「山犬」が獲物を求めてやってきた。
実際、彼がどうなったのかという真相を知る者はなかったのである。
果たして、山犬のハナは正しかった。
少年はそこに座っていた。
しかも、生きていた。
「あれは『フィナモ』と『ロニネ』の合体魔法。
さっきの水は『フィナモ』を消滅させたけど、『ロニネ』のほうには無力だった。
それにしても、今回の収穫はでっかいなぁ。」
見ると、ファラの目の前に描かれた「魔法陣」には、あの狼が閉じ込められていた。
「すごいだろ。
『メゼアラム』っていう魔法なんだ。」
恐れ慄(おのの)いた山犬たちは、一目散(いちもくさん)に逃げてしまっていた。