第 01 章「道」
第 01 節「山道」
突然の激しい振動に、ファラもついには目を覚ました。
どうやら結界が破られつつあるようだ。
多くの危険を切り抜けてきたとはいえ、まったくの暗闇の中で、ファラは戦慄(せんりつ)を覚えた。
「あれにやられたら、ひとたまりもなさそうだ。
『ロニネ』を破ってしまうとは・・・。」
ファラは素早く身を起こし、樫(かし)の杖を振り回した。
すると彼の周囲の空間が燃え上がり、一面をパッと明るく照らし出した。
同時に結界を壊した「狼」は、この突然の出来事と「炎」に少なからずたじろいだ。
たしかにファラは類(たぐ)い稀(まれ)なる魔法力を持っていた。
また彼は、獣が炎を恐れることを知っていた。
しかしその時、ファラの意表をついて激震が走った。
まるで暗夜へ向かって逆さまに落ちていくような感覚に囚(とら)われる。
森中、山中の木々は激しく揺れ動き、地面から何かが巻き上げられていったような音がした。
すると、ここがさっきまでの山だなどとは到底思えないような大量の水――滝のような水が、ファラの頭上めがけて叩きつけた。
炎が一瞬で消え去り、あまりの水圧に少年も恐らくは命を落としたかに見えた。