第 01 章「道」
第 01 節「山道」
ファラは生来、「魔法」を使った。
この世界の住人たちは、誰しも固有の能力や秀でた技術を持っている。
その中にあって、彼には魔法力が具(そな)わっていたのである。
ファラの眠りは蝙蝠(こうもり)たちによって妨げられることはなかった。
それで、更に数時間眠り続けた。
森の動物たちは「意思」を持ってはいない。
しかし「本能」によって、特別な力を持つ人間を喰らい、「人間の知恵」を得たいという望みがあった。
自然界においては、強い者こそが他を支配する。
暗夜(あんや)は更にふけた。
月が高く昇り、最も力を放つ刻(こく)、蝙蝠や鳥たちの騒ぎを聞きつけて、ようやくこの森で一番獰猛(どうもう)な生き物が姿を現した。
それは、太古の昔より恐れられ、この地方で伝説上の怪物とされた、巨大な「狼(おおかみ)」である。
その動きは疾風(はやて)のごとく目に見えず、ターゲットとならない者には、「風」が通り過ぎただけのようにしか感じられない。
そして、多少勘(かん)のよい相手だと悟れば、決して素早い動きをせずに、「影」だけとなって木陰(こかげ)を、更には山々を渡っていく。
また、この付近で人間や家畜が突然姿を消したと言って騒がれることがある。
それこそがまさに、人知れず行われているこの怪物の「食事」なのである。
月の満ち欠けによって時々刻々体躯(たいく)の大きさも姿も異なり、とても長年月生き続けている一匹の獣であるなどとは信じ難い。
この晩現れた「狼」は、過去に人を襲ったどの時よりも禍禍(まがまが)しい力に満ちており、久しく美味い獲物にありついていなかった・・・。