第 01 章「道」
第 01 節「山道」
長い旅を続けてきた彼は、野営に慣れている。
パチパチ音を立てて燃える炎に向かって腰をおろすと、鞄(かばん)の中からパンと干し肉を一切れずつ取り出し、軽くあぶって食べ始めた。
やがて食事も終わった。
彼はさっさと荷物をまとめてしまって、今度は辺りを見回している。
どうやらここで休むらしい。
ファラはキャンプ・ファイアを中心に、円を描(えが)くような五本の木を選んだ。
そして、それらが互いに全て結ばれる図形をロープで作ると、何やら唱えて眠ってしまった。
一方、ファラがここに陣取った頃から、彼の周囲の森が少し変化していた。
静かではあるが緊張した雰囲気である。
珍しく通りかかったこの人間を見て、獣や危険な鳥たちが集まってきているようだった。
キャンプの炎が消え、ファラが眠りに落ちたとき、森が一斉に騒ぎ出した。
「蝙蝠(こうもり)」たちがしきりに喚(わめ)き立てている。
この種の蝙蝠は、集団で獲物を取り囲み、「怪音波」と呼ばれる声を出して幻惑の術をかけてくるのである。
彼らからすれば、ファラはあまりに無防備な、絶好の獲物といえた。
幻術の儀式が終ったようだ。
小さな吸血鬼たちは次々とファラに飛びかかっていった。
しかし不思議なことには、ある距離まで行くと、皆弾(はじ)かれてしまって、ファラに近づけずにいる。